犬の肺高血圧症について
犬の肺高血圧症は、肺の血管の異常によって肺動脈の血圧が上昇し、心臓に負担をかける病気です。
重篤な場合には命に関わることもあります。
「肺高血圧症って治るの?」
「肺高血圧症って何が原因で起こるの?」
「肺高血圧症はどんな症状がでるの?」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。
今回は、実際の症例をもとに肺高血圧症の症状や治療について解説していきます。
ぜひ最後まで読んで犬の肺高血圧症について知識を深めましょう。
犬の肺高血圧症とは?
犬の肺高血圧症とは、肺動脈の血圧が異常に高くなる状態を指します。
心臓と肺の血流がスムーズに循環しなくなるため、心臓に負担がかかりさまざまな症状が現れます。
肺高血圧症の主な原因
犬の肺高血圧症は、以下のような原因で発生します。
- 心臓の病気
- 肺の病気
- 低酸素血症
- フィラリア症
- 遺伝 など
特に僧帽弁閉鎖不全症などの左心系の病気や、慢性気管支炎などの肺の病気では、肺高血圧症を引き起こしやすくなります。
肺高血圧症の主な症状
犬が肺高血圧症になると
- 呼吸が荒くなる
- 運動を嫌がる
- 失神
- 咳
- チアノーゼ
などの症状が出ることがあります。
進行すると、亡くなってしまうこともあるため、放置せずに治療することが重要です。
肺高血圧症の治療
犬の肺高血圧症の治療は、肺高血圧症を引き起こす原因疾患の治療を優先して行う必要があります。
原因となっている心疾患や呼吸器疾患、その他の疾患に対して、治療を強化することが肺高血圧症の治療に繋がります。
原因疾患の治療だけでは症状が落ち着かない場合には、肺動脈の血圧を低下させる治療も行うことも効果的です。
肺動脈の血圧を低下させるには、肺の血管の通りをよくする肺血管拡張薬などの内服薬を使用します。
実際の症例
16歳3ヶ月のペキニーズの症例をご紹介します。
このペキニーズは3ヶ月前から失神を1日4〜5回繰り返しており、他院にて僧帽弁閉鎖不全症の治療中でした。
症状が改善されないため飼い主様が不安を感じて当院を受診しました。
当院で心エコー検査を行ったところ、僧帽弁閉鎖不全症の悪化は認められませんでした。
その代わりに、心臓には重度の肺高血圧症の所見が見られました。ペキニーズが失神を繰り返す原因は肺高血圧症によるものである可能性が高いことがわかります。
こちらが心エコー検査の画像です。

肺高血圧症では右心室の逆流が見られることがあり、逆流の速度が速いほど肺高血圧症が疑われます。
今回の症例では逆流速度が4.57m/sと高い数値を示していました。
また、肺動脈の圧力が83.6mmHgと肺高血圧症の診断基準である45mmHgより高くなっていることから肺高血圧症を疑うことができます。
診断をした後、僧帽弁閉鎖不全症の治療を徐々に中止し、肺動脈高血圧症に対する治療へと切り替えを行いました。
その結果、治療開始後から徐々に失神の頻度は減少し、2週間に1度程度の失神症状は出るものの、大分楽な生活を送れるようになっています。
まとめ
犬の肺高血圧症は、一般的な心臓病である僧帽弁閉鎖不全症の症状と似ているため、診断・治療が難しいこともあります。
特に今回の症例のように、僧帽弁閉鎖不全症の治療を受けている犬が失神を繰り返す場合、肺高血圧症が隠れていることもあります。
僧帽弁閉鎖不全症が重度に悪化することで同様の症状も出ますので、正確な検査による診断が非常に重要になってくるうえ、僧帽弁閉鎖不全症に対して肺高血圧の治療を行うと病態が悪化し、最悪命に関わる事態となってしまいます。
愛犬が失神を繰り返す、息苦しそうにしている場合は、早めの検査が大切です。
肺動脈の圧をチェックすることで、適切な治療を受けられる可能性が高まります。
当院では肺高血圧症の診断、治療を行っています。
愛犬の様子に異変を感じたら、ぜひ当院へご相談ください。
執筆担当:院長 渦巻浩輔