猫の消化器型リンパ腫について

「最近ご飯を残すことが増えたな…」
「少し痩せてきたかも」
「嘔吐と下痢を繰り返して、薬を飲むと落ち着くけどやめるとまた再発するな」

このような猫ちゃんたち、ご飯に飽きただけや単なる胃腸炎ではないかもしれません。
今回は慢性的な胃腸炎と区別が難しい病気、猫の消化器型リンパ腫についてお話します。
ぜひ最後まで読んでいただき、愛猫に消化器型リンパ腫に当てはまる症状がないか参考にしてみてください。

猫のリンパ腫とは

リンパ腫とはリンパ球が増殖する病気で、猫では一般的に見られる癌の1つです。
リンパ球は免疫系に関与する細胞で、血液やリンパ管を通じて体中を移動します。
そのためリンパ腫は一部分の病気ではなく、全身的な病気と考えられます。

猫のリンパ腫は発生部位によって

  • 消化器型リンパ腫
  • 縦隔型リンパ腫
  • 多中心型リンパ腫
  • 皮膚型リンパ腫

などに分けられます。

消化器型リンパ腫とは

消化器型リンパ腫は、猫のリンパ腫の40〜50%を占めるとも言われています。
比較的高齢の猫に多く見られ、消化器型リンパ腫と診断された時の平均年齢は9〜13歳です。
症状は体重減少、嘔吐、食欲不振、慢性的な下痢などが見られます。

消化器型リンパ腫の検査

消化器型リンパ腫の診断には、下記のような様々な検査を実施して総合的に判断する必要があります。

  • 血液検査
    消化器に問題があると栄養が吸収できず、栄養タンパクのアルブミンが下がることがあります。
  • 腹部超音波検査
    超音波の機械でお腹の中を見て検査します。胃や腸の異常、免疫器官であるリンパ節の腫れがないかなどをチェックします。
  • 細胞診
    超音波検査で見つかった異常な場所に針を刺して細胞を採ります。細胞が小さいので診断がつかないことがあります。
  • 組織生検・病理検査
    内視鏡を使ったり、お腹を開けたりして細胞診よりも大きな組織を採ります。採った組織を検査することで病気の診断ができます。稀に診断がつかないケースもあり、その場合は追加検査をします。

小細胞性リンパ腫とは

小細胞性リンパ腫は消化器型リンパ腫の一つです。
消化器型リンパ腫は悪性のがんですが、小細胞性リンパ腫は悪性度が低く抗がん剤が効きやすいと言われています。
抗がん剤は内服薬で、クロラムブシルとプレドニゾロンという薬を併用して治療することが一般的です。
抗がん剤の投与により96%で症状が改善し、56〜69%で癌の消失が認められたとの報告があります。
また、消失している期間は平均で2〜3年という報告もあります。
癌の消失=完治と言うわけではありません。これは寛解という状態です。
一度癌が見えなくなっても、再度大きくなる可能性はあります。

猫の小細胞性リンパ腫の症例

今回の症例は11歳4ヶ月の雑種の猫ちゃんで、ほぼ毎日嘔吐するとのことで来院されました。

身体検査を行なったのちに血液検査を実施したところ、血液中の栄養タンパクであるアルブミンの低下が確認されました。
慢性的な嘔吐の症状と血液検査の結果から消化管の異常を疑い、内視鏡検査に進みました。内視鏡検査では、麻酔をかけた後に口から入れる上部内視鏡検査、肛門から入れる下部内視鏡検査の両方を実施しました。
胃、小腸、大腸など30カ所程度から組織を採って病理検査をしたところ、『小型リンパ球が増殖した高分化型リンパ腫』と診断されました。小型のリンパ球が増えていることから小細胞性リンパ腫と判断できました。

治療はクロラムブシルとプレドニゾロンの内服薬を併用しました。
薬を始めてから嘔吐の回数は激減し、血液検査でアルブミンの値も改善しました。
現在も投薬治療により、元気な頃と同じような生活を送っています。

まとめ

リンパ腫と聞くと悪性の恐ろしい病気と思われるかもしれません。
しかし小細胞性リンパ腫の場合は抗がん剤の副作用も少なく、本人の体調を維持して治療を継続できるケースも多々あります。

小細胞性リンパ腫は慢性的な胃腸炎との区別が難しい病気です。もし治療していてもなかなか治らない場合は検査を進める必要があるかもしれません。
お困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。