犬の鼻腔内異物について

鼻腔内異物とは、草や虫などの通常鼻の中に存在しないものが、何かのきっかけで鼻の中に存在する状態のことです。
愛犬が急に

  • 鼻詰まりを起こした
  • 呼吸がうまくできなくなってしまった
  • くしゃみが止まらない

という場合には、鼻腔内に異物が混入しているかもしれません。
呼吸がいつも通りとはいかず、犬にとっては不快なものです。
飼い主様にとっても心配な状態ですよね。
今回は鼻腔内異物で鼻詰まりになってしまった犬を紹介しながら、この疾患について解説していきます。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬のピンチに備えましょう。

鼻腔内異物とは

鼻腔内異物の原因は大きく分けて2つあります。
1つ目は、鼻の入り口から異物を吸い込むことです。
異物の例には

  • 綿棒
  • おもちゃの破片
  • 草木

などがあります。

2つ目は、異物が内側から鼻腔内に迷入することです。
異物の例には

  • 吐き戻したフードやおやつ
  • 胃液

などがあります。

鼻腔内異物の症状には

  • くしゃみ
  • 逆くしゃみ(豚のように音を立てて空気を吸い込む様子)
  • 顔を激しく振る

などがあります。
時間が経つにつれて、異物が鼻の粘膜を刺激することで鼻炎となり、鼻汁が出てくるようになります。

鼻腔内異物を診断するためには

鼻腔内異物を診断するのは難しいといわれています。
ここからは鼻腔内異物を診断する方法をご紹介します。

フェレットの腸閉塞の原因には以下犬が異物を誤食してしまう原因には以下のものが挙げられます。

  • 好奇心
  • 退屈やストレス
  • 環境管理の不備
  • 空腹や栄養不足
  • 学習

それぞれ解説していきます。

問診

鼻腔内異物の時にみられる鼻水やくしゃみなどの症状は、他のたくさんの病気でもみられるため、症状のみから診断することは難しいです。
1番大切なのは飼い主様からの問診です。

  • くしゃみや鼻水などがいつから出るようになったのか
  • 鼻に何かが入ってしまうような心当たりがあるか
  • 吐き戻しがあったか
  • どんな鼻水やくしゃみ出るか

このような情報が鼻腔内異物の診断の鍵です。
特に、突然激しいくしゃみをしていて、顔を引っ掻くなどの行動を伴う場合には、鼻から異物を吸引してしまった可能性が高いです。

症状がひどい時に動画を撮っておき、獣医師に見せることも診断の助けになります。
動画を撮る時のポイントには

  • 呼吸の音がわかるように音声を入れる
  • 全身(とくに頭部〜胸部まで)が入るようにする
  • 短すぎず長すぎず伝えたい症状がわかるようにする(症状にもよるが1〜3分程度あると良い)

などがあります。
特に、鼻腔内異物の呼吸の音には特徴的なものがあります。
スターターというものです。
スターターとは、「ブーブー」といういびきのような音や、「スースー」という鼻詰まりのような音のことです。
このような呼吸になっているのかどうかも観察してみると良いでしょう。

内視鏡

鼻腔内異物は内視鏡検査によって

  • 異物の確認
  • 粘膜の状態の確認
  • 洗浄
  • 摘出

が可能であることが多いです。
ただし内視鏡がない動物病院も多いです。
鼻腔内異物が明らかにあると心当たりがあって、かかりつけでの摘出が困難であった場合は内視鏡のある動物病院を紹介してもらうことも一つの選択肢でしょう。

鼻腔内異物の治療

鼻腔内異物の治療は、異物を除去することです。外側から異物を取り出すことができないので、内視鏡を使います。
内視鏡を使うと、鼻腔内の様子や異物を目視で確認することができます。
異物を目視で確認できたら、鉗子という、物を挟む器具を使って異物を取り出すことで治療を終えます。
しかし内視鏡で必ず異物を目視で確認できるわけではありません。
異物が確認できない場合には鼻腔洗浄をすることで異物を排出できることもあります。
内視鏡で異物を除去するにしても、鼻腔洗浄をするにしても、痛みが伴うため、全身麻酔をかける必要がありますね。
異物を除去できても、鼻の中に炎症や感染が起こっている場合は、抗生物質や抗炎症薬を飲ませて治療をします。
他に鼻腔内異物の原因となるような病気がある場合は再発を繰り返すことがあるので、その病気に対する治療や日常的なケアが必要です。

実際の症例

症例は3歳の小型犬です。
6日前から鼻詰まりがあり、他の病院で治療しましたが、良くならず当院を受診されました。
スースーという鼻詰まり音が聴取され、とても苦しそうな様子でした。

その後全身麻酔をかけ、内視鏡を用いて鼻腔内異物を摘出しました。
異物の正体は一本の針状の草でした。
こんなものが鼻の中に刺さっていたかと思うととても痛そうですよね。

異物を除去できたことでこの犬の症状はすぐに改善され、退院することができました。

まとめ

鼻腔内異物は診断や治療が難しい場合があります。
そこで重要となるのが、やはり飼い主様からの情報です。
特に好奇心旺盛な犬は、お散歩の時、草むらや林の中に入って匂いを嗅ぎたがることもあるでしょう。
その時に草や虫が鼻に入ってしまい、くしゃみや鼻水を出すようになってしまう子もいます。
愛犬をお散歩させるとき、スマートフォンを片手に画面に夢中になりながら歩いている方をよくみかけます。
これは危険なだけでなく、愛犬に起きた異変に気づくことができない可能性も高まります。
普段からよく愛犬の様子を観察しながら、お散歩の時も注意してみてあげてください。
「いつもと違う呼吸をしている。」
「鼻水やくしゃみをたくさんしている。」
そのような症状がある場合には呼吸異常や鼻炎が重症化する前に動物病院を受診し、しっかりと検査や治療を受けさせてあげるようにしましょう。
当院では内視鏡のご用意もありますので、安心してお任せください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。