モルモットの去勢手術について

モルモットは、非常に温厚な性格と可愛らしい見た目から近年のエキゾチックアニマルがブームとなっている中で、ペットとしてとても人気があります。
しかし、犬や猫ほどは飼っている人が少なく、飼い方や病気について知りたいことがたくさんあっても、信用できる情報がなかなか手に入りませんよね。

  • モルモットをお迎えしたばかり
  • 飼っているモルモットが病気になって去勢手術を勧められた
  • 犬や猫の去勢手術との違いが知りたい

という方に、今回はモルモットの去勢手術についてご説明します。

去勢手術ってどんな手術?

去勢手術とは、オスの精巣を取り除く手術のことで、犬や猫ではとても一般的な手術です。
モルモットの精巣は、お腹を開けたりはせず、精巣の真上の皮膚を切って血管などの処理をするだけで取り除くことができます。
去勢手術自体は大きな手術ではありませんが、痛みや恐怖を取り除くために、全身麻酔をかけて行います。
手術自体は10分程度で、モルモットは入院することが大きなストレスになるため、日帰りで行うことが多いです。

モルモットの去勢手術のメリット

大きな手術ではないとは言っても、大切な家族の体にメスを入れることを決めるのは抵抗のある方も多いですよね。
犬や猫の去勢手術のメリットは、主に望まない繁殖を防ぐことと、雄性ホルモンの影響で起こるトラブルを防ぐことですが、モルモットの場合はどうなのでしょうか。

繁殖の防止

モルモットは繁殖能力がとても高い動物です。
群れで飼育することが勧められていますが、雄雌同時に飼っていると、ご家族が望んでいなくても繁殖してしまうこともあります。
繁殖すると、妊娠・出産中にモルモットが病気になってしまうリスクもありますし、ねずみ算式にモルモットの数が増えていくことになります。
そのため、複数のモルモットを飼育している場合は、雄のモルモットに去勢手術を行うことで、予期せぬ繁殖を防ぐことができます。

病気の予防・治療

発生頻度は多くありませんが、モルモットの精巣で代表的な病気は腫瘍です。
精巣腫瘍になると片方の精巣がとても大きくなり、もう片方の精巣は小さくなっていきます。
モルモットの精巣腫瘍についてはまだ研究が進んでおらず、どの薬が有効なのか、どれくらい生きられるのかなどははっきりしていません。そのため現在、精巣腫瘍になってしまった場合は、去勢手術が推奨されます。
一般的に腫瘍は高齢になってから発症するため、麻酔リスクやストレスによる影響を強く受けます。

モルモットの去勢手術のデメリット

モルモットの去勢手術のメリットについて説明してきましたが、モルモットの去勢手術は犬や猫に比べ、病気の予防として実施するというよりは必要があって実施されることが多いです。
しかし、去勢手術によるデメリットも無視できません。

犬猫と比べて麻酔リスクが高い

モルモットはとても可愛くペットとしてとても優秀ですが、犬や猫と比べ飼っている人が少ないため、まだまだ研究が進んでいません。
そのため、モルモットの麻酔に使う薬について、手術に必要な量や副作用がはっきりしなかったり、犬や猫のように麻酔中に血圧や心拍数などを測定するのにちょうどいいサイズの器具が動物病院にないことが多いです。そういった事情から、麻酔による体の変化にすぐに対応することが難しく、麻酔をかけた時に亡くなってしまうケースも他の生き物に比べると明らかに高いです。

感染症を起こす可能性がある

去勢手術による手術の傷はとても小さいですが、術後にモルモットが痛みや違和感を感じて傷をかじってしまうことがあります。犬や猫では傷を触らないようにするエリザベスカラーを装着しますが、モルモットの場合は非常にストレスを感じるため、装着しないことが多いです。
また、モルモットは体の高さが低く、傷を床に擦ってしまったり、同居のモルモットにかじられてしまったりすることもあります。
手術の傷を清潔に維持できなかったり、かじって傷をえぐったりすると、傷口から感染症を起こしてしまいます。そのため、術後は痛み止めと抗生剤が処方されます。

ストレス

モルモットなどの小動物はとてもデリケートな生き物です。
動物病院という慣れない環境に連れてくることや、体を押さえて検査や処置をされることに大きなストレスを感じます。
そのため、動物病院ではなるべく短時間で処置を済ませたりすぐにご家族のもとに返すようにして、なるべくモルモットのストレスにならないよう配慮されていることが多いです。
また、術後の投薬や手術の傷の観察なども非常に重要なことですが、モルモットにとってはストレスに感じることでしょう。

太りやすくなる

去勢手術によるホルモンバランスの変化は肥満に繋がります。
モルモットの場合はまだ不明な点も多いですが、去勢手術により繁殖をしなくなると、繁殖に必要なエネルギーが消費されなくなり、基礎代謝量が低下するためと言われています。
モルモットが太ってしまうと、骨や関節、その他の内臓に負担がかかるため、去勢手術を実施した場合は、体重の変化に気をつけましょう。

モルモットの去勢手術の実際の症例

当院で行ったモルモットの去勢手術の実際の症例をご紹介します。
本症例は一緒に飼い始めた同居のモルモットが実は女の子だったため、繁殖を予防することを目的で当院に来院されました。
以下が手術前の画像と手術後の画像です。

精巣が摘出されているのがわかります。
傷もほぼ残らず手術後の生活もまったく支障は出ませんでした。

まとめ

モルモットの去勢手術についてご説明しました。
モルモットの手術については情報がまだ少なく、手術を考えている方は不安な点も多いと思いますが、少しでも疑問は解消されたでしょうか。
モルモットの去勢手術はメリットもデメリットもとても重要なものが多いです。当院ではご家族としっかり相談し、深くご理解いただいた上でモルモットの手術を実施しています。より詳しく聞きたい方はぜひ、獣医師にご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。