ウサギの根尖膿瘍について

ウサギの膿瘍は感染や炎症により膿が発生すことで発症し、さらに膿によって組織の壊死や組織が溶けることにより悪化していきます。
慢性化すると菌や炎症が全身に回り、致死的な病態となる病気です。
今回はウサギの歯が原因で起こった膿瘍について、症例を交えながら解説していきます。

ウサギの膿瘍の原因は?

ウサギの膿瘍の原因は歯の病気が原因になることが多く、歯が原因となって発生する膿瘍を根尖膿瘍といい、ウサギで最も多い膿瘍のタイプと言われています。
歯の根っこが伸び、そこに餌のカスやお口の中の菌が入り込むことによって歯根に感染を起こすことにより膿瘍を作ります。
最初は小さく、見た目では全くわかりませんが、次第に大きくなり場合によっては顎の骨を溶かしながら膿が溜まっていきます。

膿瘍を放置するとどうなる?

膿瘍は通常、無痛で進行することが多いため、飼い主様も気づくのが遅れることがあります。
時間が経った膿瘍は顔や顎周りが変形するように大きくなります。
また、その膿瘍がエルギーを大量に消費してしまうため、ご飯を食べても痩せていき、最終的には衰弱や食欲不振、貧血を起こす場合もあります。

ウサギで膿瘍が発生した症例は一般的に完治が難しく、未だに確立した治療方法は存在しません。

検査・治療

検査は歯や顎の骨の状況はレントゲン検査を行い、歯根の確認を行います。
一般的に普通の動物の膿瘍の治療には、外科治療と内科治療がありますが、ウサギの膿瘍の場合、内科治療単独で根治に至る可能性は極めて低いです。また、他の動物の様に切開して排膿させても病態が悪化することもあるため、安易に切開を行うこともできません。
ウサギの膿瘍は一般的な動物の膿瘍とは違いやや特殊で、被膜に包まれた膿瘍が拡大していきます。そのため抗生剤を使ったとしても中の膿瘍に届かないため効くことはなく、お薬で完治させることはできないことが大半です。

根治を目指す場合は、外科手術により膿瘍を丸ごと摘出し、歯根膿瘍の場合は原因となっている歯の抜歯や周辺の骨の処理を併せて行うことで治療できることもありますが、それでも再発率の大変高い疾患です。

ニキビダニ症の実際の症例

7歳6ヶ月のうさぎさんが顎のしこりの相談に当院に来院されました。
腫瘤自体は1年ほど前からあり、他院では治療困難のため経過観察と言われていましたが、拡大してきたため、どうにかしてあげたいとの飼い主様の強い希望がありました。

手術はウサギ専用の喉頭マスクを用い、全身麻酔下で行いました。
膿瘍の袋を破かないように慎重に剥離・摘出を行い、原因となっている歯を抜歯しました。膿瘍は顎の骨に癒着しており摘出には大変苦労しました。
摘出した後、糸で縫った部分に一部穴を開けておき、その穴から定期的に内部の洗浄や抗生剤の投与を行いました。

本症例は時間はかかりましたが、飼い主様の懸命な看護・治療の末、幸いなことに経過も良く寛解することが出来ました。

写真ではわかりにくいですが、頬はぺったんこで再発も無く、毛も生えてくれました。

まとめ

本症例は飼い主様の手厚い看護や在宅での洗浄が行えたため、幸いにも治療することができました。
しかし、うさぎさんの膿瘍は未だに完治の大変難しい疾患です。
ウサギの膿瘍は根尖膿瘍だけに限らず、全身の臓器に発生する可能性があります。
年齢に限らず発生すると言われていますが、加齢や栄養失調が免疫低下や治りを遅くすることもあり、膿瘍が悪化する要因となることもあります。
いずれにしろ発生した膿瘍は外科的に摘出しても再発などを繰り返し、完治できないこともしばしばあります。
残念ながら膿瘍ができてしまった症例の長期的な予後は悪いことが多いですが、膿瘍の原因である歯の不正咬合などは、食餌をチモシー主体にすることで歯根部への負荷を軽減させ、発生率を下げることも可能です。
どうか、膿瘍で苦しむウサギさんが増えないことを祈るばかりです。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。