犬の食道内異物(食道閉塞)について
食道は胃までの通り道です。
通常はスムーズに胃に流れますが、その食道に物が停滞すると食道内異物となります。
犬は習性としてご飯やおやつを丸呑みにする傾向にあり、猫と比較すると圧倒的に食道内に物が詰まりやすいと言われています。
閉塞を起こす物として多いのが、ジャーキー、おやつ、骨、りんご、ささみ、針などであり、チワワやトイプードル、ポメラニアンなど小型の犬種で多く診られます。
食道につまった時の症状は?
実際に食道にものが詰まった経験のある飼い主様は少ないはず。
どのような症状が出るのか、想像しづらいと思いますのでここで解説していきます。
症状は異物が大きいものであれば比較的わかりやすいことが多く、
- 強い吐き気
- 呼吸困難
- 唾液が絶えず出る
- 飲み込みがうまくできない
- 詰まったものを一部を吐く
などがあり、針や骨の一部が刺さった場合は
- 飲み込み時に痛がる
- 食欲不振
という分かりにくい症状が見られます。
詰まったままだとどうなるの?
食道にものが詰まり物理的な閉塞が起きた場合は、詰まった場所で炎症による浮腫が起こり、その後血行不良を起こして壊死します。
壊死だけでも大変なことですが、血行不良が起きた食道はとても脆くなり、さらに時間が経過すると食道が裂けます。
食道が裂けると
- 気胸
- 胸水貯留
- 縦隔気腫
を起こします。
その他にも食道のつまりにより、
- 窒息
- 食道の損傷
- 食道狭窄
が起こる可能性があります。
検査・治療
大きな異物であれば、首元を触ることで異物に触れることが可能な場合もありますが、違和感から触られることに嫌がる症例も多くいます。
その場合はレントゲン検査が有用です。
レントゲン検査では食道の広がりや食道内の異物、ガスの貯留を確認することが可能ですし、気胸や胸水、気腫が起きていないかを同時に見ることもできます。
食道内に異物があると診断された後は、麻酔をかけて内視鏡で異物を摘出するか、消化可能なものであれば内視鏡を用いて胃まで押し込むことができます。
食道が裂けている場合は無理に内視鏡で取ることはせず、外科的な摘出を行います。
ただし食道は飲食による飲み込みや、呼吸により常に動きがある場所なため、糸で縫った部分が裂けやすく、また縫合により食道が狭くなるなどの合併症が多いと言われています。
実際の症例
3歳のポメラニアンが嘔吐、食欲不振が続くとのことで、他院から当院へ紹介来院されました。
来院時は苦しそうな様子で、レントゲン検査を行ったところ食道内に異物が確認されました。
幸いにも食道が裂けた時に見られる気胸や気腫、胸水は確認されなかったため、内視鏡により異物の摘出を行いました。
異物は無事摘出できましたが、食道炎が重度であり、異物摘出した後も食道炎に対するしっかりとした治療が必要でした。
異物の原因は犬用のおやつの芋でした。
まとめ
日本での食道内異物の症例は72%が5kg以下の小型犬であり、96%が10kg以下の犬であったという報告があることから、小型犬ではより食道閉塞を起こしやすい傾向にあると考えられます。(ただし、日本では小型犬の飼育頭数が多いということも検討する必要はあります。)
異物での食道閉塞の致死率は5~5.4%という報告もありますが、閉塞を起こしてから比較的早期に対応した場合は生存率は高くなると言われています。
何かを飲み込んだ後から苦しそう、普段と様子が違うなどの症状が出た場合はすぐに病院を受診してください。
執筆担当:院長 渦巻浩輔