フクロモモンガの陰茎脱について

フクロモモンガの陰茎は他の動物たちと比べて特殊な構造をしています。
今回はこのフクロモモンガの陰茎に発生する「陰茎脱」という病気について解説します。

フクロモモンガの陰茎は、尿や便を排泄する場所と同じ場所、総排泄孔から出ているという特殊な構造を持っています。
さらに、フクロモモンガの陰茎は二股に分かれていて、その分岐の中心に尿が出てくる尿道の開口部が位置しています。
フクロモモンガの陰茎脱は、陰茎が総排泄孔内に適切に収納されず、外部に露出したままになる状態を指します。性的ストレスが原因と考えられています。
陰茎脱は時間の経過とともに、脱出した部分の陰茎が壊死に至るリスクが上がり、そのまま自咬症につながると治療が長期化することもあるため、緊急性の高い医療対応が必要です。
フクロモモンガの陰茎脱の治療は、陰茎を優しくマッサージして総排泄孔内に戻すことから始めますが、一般的にはこれは困難であったり、組織が壊死していることが多いため、外科手術による壊死部の切除が必要となることが多いです。

今回は陰茎脱により、陰茎が元の場所に戻らず壊死してしまったフクロモモンガさんの症例です。

フクロモモンガの陰茎脱に対して外科手術(去勢手術と陰茎切除)を行った症例

今回ご紹介する症例は1歳のオスのフクロモモンガさんで、陰茎が総排泄孔に戻らないとのことで来院されました。

片方の陰茎は壊死を呈していました。
壊死してしまっている場合は、お薬での治療は難しいため、手術による陰茎切除と前述した通り、性的ストレスが原因となる可能性があるため、去勢手術を同時に実施しました。

手術は全身麻酔をした上で行いました。
一般的にフクロモモンガの全身麻酔は、呼吸停止のリスクが高いと言われています。
今回の手術でも、呼吸が止まらないように慎重に行われました。

青丸部分が二股に分かれている陰茎です。先端が壊死してしまっています。

手術は、尿道の開口部を温存しながら、二股に分かれている陰茎をどちらとも止血しながら切断するという方法で行いました。
また、去勢手術は陰嚢ごと一括に精巣を摘出しました。
手術は滞りなく終了し、陰茎も元の総排泄孔に収まるようになりました。

手術後の陰茎脱が治っている様子

手術後もカラーを着用し、傷口が完全に治るまでは齧らないようにしてもらいました。
その後、傷口も治り、元気に元通りの生活を送れるようになってくれました。

フクロモモンガの陰茎脱は、陰茎の壊死により場合によっては命を落とす可能性のある病気です。
早期発見治療が非常に大事になりますので、疑わしい状態を発見したら、すぐに動物病院に連れて行く様にしてあげてください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。