猫の疥癬について

「猫ちゃんのしつこい痒みが治らない」
もしかしたら、それは猫の疥癬かもしれません。
猫の疥癬とはネコショウセンコウヒゼンダニが寄生することによっておこる皮膚疾患です。
疥癬は耳や顔、体全体に強い痒みを引き起こし、猫の生活の質を大きく低下させます。
今回は、猫の疥癬の症状や治療法についてや、当院で実際に猫用の駆虫薬を用いて治療を行った猫の疥癬の症例を紹介します。

猫の疥癬について

疥癬とはダニの一種であるヒゼンダニが皮膚に寄生しておこる皮膚の病気です。
その中でも、猫の疥癬はネコショウセンコウヒゼンダニの寄生が原因となります。
ネコショウセンコウヒゼンダニの虫体は表皮の角質層に疥癬トンネルとよばれる穴を掘り、その中で排泄や産卵をします。

ネコショウセンコウヒゼンダニはネコ科動物でのみ繁殖できます。したがって猫同士の接触により感染し、主に屋外に出る猫での感染が多いです。
人にもうつる場合もあるため、注意が必要ですが、猫以外の動物ではダニが繁殖できないため増えることはありません。

猫の疥癬ではネコショウセンコウヒゼンダニの糞便などに対するアレルギー反応として皮膚症状が出ます。
症状は耳介が好発部位で次第に頭部や顔面に拡大します。重症例では体幹や四肢にかけて症状が見られます。
皮膚の強い痒みや赤み、脱毛や分厚いフケが症状として出ます。
痒みによって掻きむしってしまい、出血してしまう場合もあります。

また、痒みにより頭を振ることで耳介の中で出血を起こし、耳が腫れる耳血腫を起こす場合もあります。
症状が重症化する前に、早めに動物病院を受診することが大切です。

症例紹介

猫の疥癬の治療は駆虫薬の投与です。
今回は猫の疥癬を猫用の駆虫薬によって治療した症例を紹介します。

上の写真が疥癬に感染した猫ちゃんの写真です。本症例は高齢の完全室内飼いの猫ちゃんでした。
耳介や頭部から顔面にかけて皮膚の赤みや、フケが多く出ているのが分かります。 この症例では皮膚検査によって、ネコショウセンコウヒゼンダニが検出され、猫の疥癬と診断されました。

上の動画が顕微鏡で見たネコショウセンコウヒゼンダニです。

今回の症例では猫用のスポットタイプの駆虫薬を用いて治療を行いました。
首筋や肩甲骨付近の皮膚に滴下するスポットタイプの製剤なので、投薬が苦手な猫でも簡単に使用できます。

治療後の猫ちゃんの写真です。
皮膚の赤みやフケがなくなり、毛も生えてきれいになっているのが分かります。

まとめ

猫の疥癬は強い痒みや脱毛などを引き起こし、猫の生活の質が著しく低下します。
また放置すると症状が悪化することがあるので、早期の診断と治療が重要です。
今回紹介した症例では、駆虫薬の投与により安全かつ効果的に猫の疥癬の治療がされました。

猫の疥癬を予防するために疥癬になった動物と接触しないことも大切です。
室内飼いを徹底し、野良猫との接触を減らすことも予防になります。
また、定期的な駆虫薬の使用はノミ・ダニや疥癬などを予防することも可能です。
駆虫薬の中には、ノミ・ダニやヒゼンダニの駆虫、フィラリアの予防がまとめてできるものもあります。

飼い猫の皮膚トラブルにお悩みの方や、猫の定期的な予防に関して何かお困りごとがある方はお気軽に当院までご相談してください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。