子猫の中手骨の骨折について

猫の骨折は、その大部分が交通事故や落下などの外傷性と言われています。
その中でも手の甲の骨である中手骨の骨折は、猫の骨折全体の3%前後の発生率と言われています。
今回は中手骨を骨折した子猫を外固定により治療した症例を交えつつ、中手骨の骨折について解説していきます。

中手骨骨折の症状

骨折は元気な若い猫で起こることが多く、平均年齢は4歳前後という報告があります。
症状として多いのが

  • 足を挙げる
  • 骨折箇所が腫れている
  • 明らかな痛みがある
  • しきりに舐める
  • 皮膚が裂けている

などです。
骨折をすると血管が切れ、内出血を起こすことが多いですが、多くの猫種は毛が生えているため、内出血は見えづらい傾向にあります。
腕や脛の骨折でよく見られる、足先の向いている方向が違うという症状も、中手骨骨折では分かりにくいです。

骨折時の応急処置

骨折かも?と思ったら、すぐに診てくれる病院に連絡・相談をしましょう。
すぐに病院に向かえない場合は、猫をなるべく安静にさせてください。
可能であればキャリーなどに入れ、これ以上運動などができないようにします。
包帯や冷却は猫が嫌がる場合が多く、逃げてしまうことがあります。
逃げると病院に連れてくることも困難になりますので、安静を第一としてください。

骨折の検査・治療

中手骨骨折は触診やレントゲン検査で診断可能です。
レントゲン検査は中手骨だけではなく、他の部位にも骨折がないかを確認するためにも実施します。
治療は観血的治療と非観血的治療に分かれます。
観血的治療とは手術により骨折した骨と骨を合わせて固定する方法です。
メリットは、骨格的に適切な整復が可能であることや、治癒までにかかる時間が短いことが挙げられます。
デメリットは麻酔が必要であることや、処置が高額であること、固定プレートの感染などの術後合併症が挙げられます。
非観血的治療は、手術をせずにギプスなどで固定することにより治療する方法です。
メリットは長時間の麻酔を必要としないことや、比較的安価に実施できるところです。
デメリットは骨折部位を正確に合わせることが困難であるため、治癒に長時間かかることや、治療後にも歪みが生じる可能性があることが挙げられます。

実際の症例

9ヶ月齢の猫が4階から落下し、来院されました。
意識はしっかりしており、頭部の外傷や内臓にも大きな問題はなさそうでしたが、前足を痛がる素振りがありました。

レントゲン検査を実施したところ、両前足の中手骨の骨折が確認されました。

治療法について飼い主様と話し合い、飼い主様の希望により、手術を行わず、外固定による治療を行いました。

また、日常生活でも運動の制限を実施しました。

こちらが3ヶ月後のレントゲンです。

中手骨は綺麗に整復され、症例の経過も良好です。

まとめ

今回は猫の中手骨の骨折について解説しました。
猫は骨折の原因の多くが外傷であることから、まずは全身の状態の確認が必要です。
交通事故などの大きな衝撃が疑われる場合は、家で様子を見ずにすぐに病院へご連絡ください。
中手骨の骨折は他の部位の骨折と違いどちらの治療を選択しても、長期的には良好な結果を得られることが多いですが、骨折している本数が多い場合は、基本的には手術による整復が望ましいです。
本症例は幸いなことに綺麗に治ってくれましたが、全ての症例が綺麗に骨が真っ直ぐ治るわけではありません。
猫の性格や生活環境なども含め、猫にとってベストな治療方針を獣医師と相談してください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。