猫の腎細胞癌について

腎細胞癌は猫の腎臓腫瘍の中では一般的な腫瘍と言われていますが、猫の腫瘍全体の中では非常に稀であり報告も少ない腫瘍です。
猫種に差はなく、オスがメスよりもやや多いという報告があります。
通常は2つある腎臓の片方のみの発生が多いと言われていますが、稀に両方の腎臓に発生することもあります。
今回はそんな珍しい腎細胞癌を症例を交えつつ解説していきます。

腎細胞癌の症状と診断

症状は特徴的なものは無く、食欲不振や体重減少、血尿などが見られる時もあります。
しかし、全くの無症状で「お腹が張ってきた」などを理由に来院されるケースもあり、症状は症例により異なります。
診断には画像検査、病理組織学的検査を実施します。
画像検査はレントゲン検査や超音波検査があり、レントゲン検査では腎臓の変形や腹部の大きなしこりを確認することができます。
超音波検査ではそのしこりが腎臓由来かどうかを見ることが出来ます。
診断困難な場合はCT検査が有用です。
確定診断には病理組織学的検査という検査が必要ですが、検査にはある程度の大きさの組織が必要であるため、検査は慎重に行う必要があります。

治療

腎細胞癌は可能であれば手術による摘出が第一選択です。
手術を選択できないまたは、しない場合は内科療法となりますが、抗がん剤の有効性は証明されていません。

実際の症例

症例は13歳の去勢雄の猫です。
急な食欲不振と低体温で当院を受診されました。
レントゲン検査ではお腹に通常よりも大きいサイズの腎臓が確認されました。

超音波検査では後腹膜腔内に出血が確認され、その原因が右腎臓の腫瘤からと診断しました。

この出血が急激な血圧の低下を起こし、ショックを引き起こしていると診断し、入院にて治療を実施しました。
ショック状態は脱することができ、元気・食欲も改善したため退院となりましたが、経過を追うごとに右腎臓の腫瘤が大きくなってきていることから、飼い主様と相談し、右腎臓の摘出手術を行いました。破裂した部分の癒着がひどく摘出に難儀しましたが無事摘出できました。

診断結果は腎細胞癌でした。
症例の猫ちゃんは手術後も特段問題となる様なことはなく、退院しました。
その後は定期的な検診を行い、転移が無いかを診ております。

まとめ

猫の腎細胞癌の余命に関するまとまった報告はありませんが、人と同じような癌の広がり方をするため、人と同様に余命はあまり長くないと考えられます。(人の余命は4〜19ヶ月)
リンパ節や肝臓、肺に転移が見られる場合はさらに余命は短いと考えられます。
症状も分かりづらいことがあり、血液検査でも異常が出ないことが多々あります。(腎臓の数値が正常であることも多い)
猫の腎細胞癌の診断時の平均年齢は8〜11歳であるため、中高齢の猫は血液検査だけではなく、画像検査などの健康診断もしっかり受け、早期発見・早期治療を目指しましょう。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。