逆流性食道炎の猫について

食道炎と聞いて、逆流性食道炎を連想される方は多いかと思います。近年、CMなどでもその単語をよく聞くようになりました。
猫にも食道炎はあり、過度な嘔吐や胃酸逆流による逆流性食道炎はもちろん、動物さん特有の誤食による炎症でも起こります。
食道炎は、嘔吐の悪化や食道狭窄を引き起こすこともあり、早期の治療が必要です。
今回は逆流性食道炎から食餌が取れなくなった猫を紹介しつつ、本疾患を解説していきます。

逆流性食道炎とは

逆流性食道炎は胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流することで、食道に炎症を起こす病気です。
食道の粘膜は胃酸に対して弱く、逆流により簡単に炎症が起こるとされています。
食道炎は比較的、発生頻度が多いと考えられますが、実際に診断されることは少なく、治療や時間経過とともにそのまま良化することも多いようです。
症状は食欲不振や飲み込んだ時に食べたご飯を吐き出してしまうなどがあります。
これといった特徴的な症状に乏しく、軽度であれば食道炎だと気づくことが困難と言われています。
重度になると、頻発する嘔吐や見逃せないほどの食欲不振、飲み込む時の痛み、流涎などがありますが、それでも通常の胃腸炎や膵炎など似たような症状を示す病気との鑑別は困難です。

診断

診断には内視鏡検査が必要ですが、飼い主様からの情報もとても大切です。
例えば

  • 異物を食べていないか
  • 投薬歴
  • 直近で麻酔をしていないか
  • 環境の変化があるか

これらは、食道炎を起こすきっかけになる場合もありますので、獣医師にお伝えください。
内視鏡の検査では主に食道を観察します。
明らかな病変がある場合は細胞を見るために生検を行う場合もありますが、食道の粘膜は生検が困難なことが多いため通常はあまり行いません。

治療

治療で行うことは主に2つです。
1つは胃酸の分泌を抑えることです。
胃薬などを使用し、胃酸の分泌を抑え、胃酸の逆流による食道炎の悪化を抑え込みます。
2つ目は食道と胃を繋いでいる入り口の筋肉を収縮させることです。
これにより胃酸の逆流をさらに起きにくくし、飲み込んだご飯などを早く腸の方に流します。

食道炎により嚥下が困難な重症例では、胃ろうチューブを設置します。
胃ろうチューブとは、お腹の皮膚と胃をチューブによって繋ぎ、食道を介さずに外から胃に栄養を入れることができる方法で、薬の投与も可能です。

逆流性食道炎の実際の症例

症例は7歳2ヶ月の猫ちゃんです。
お家に仔猫を迎えた後から嘔吐が散発してみられ、その後嘔吐が止まらなくなってしまったとのことで当院を受診されました。

数種類の吐き気止めの使用や、経鼻カテーテルという口を使わず鼻から直接食道にご飯やお水を入れることができるチューブを設置しましたが、流動食を入れた先から嘔吐や吐出が始まり、効果はありませんでした。
このままではこの症例が衰弱してしまうことが想定されたため、原因追求と治療のために内視鏡検査を実施しました。

内視鏡で食道粘膜が赤くなっていることがわかり、経過から逆流性食道炎と診断しました。

食道を介しての給餌は困難であると判断し、胃ろうチューブを設置しました。
これにより嘔吐もなくなり症例の食欲も徐々に改善していきました。体調が万全になったところで胃ろうチューブを抜去し治療は終了しました。
抜去後も食欲の低下や嘔吐は認められず、元気に過ごしてくれています。

まとめ

この症例もきっかけは新しく仔猫を迎えたことによる環境の変化から、ストレスを感じ嘔吐をすることによって食道炎となってしまいました。
猫は環境の変化にとても敏感な動物で、嘔吐や食欲不振、血尿をしてしまう子もいます。
環境を変える場合は少しずつ変えていく、またはリラックス効果のあるサプリメントの使用を検討してみてください。
それでも症状が出てしまった場合は、食道炎などが重症化する前に動物病院を受診し、しっかりと治療を行なってあげてください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。