犬の皮膚糸状菌症について

犬の皮膚糸状菌症は、皮膚に感染する糸状菌によって引き起こされる病気で、「犬の白癬」とも呼ばれています。
この病気は人間にも感染する可能性がある「人獣共通感染症」で、特にMicrosporumとTrichophytonという真菌(カビ)が原因となります。
これらの真菌は犬の皮膚に直接感染し、炎症を引き起こし、痒みや痛み、そして皮膚の赤みやフケ、脱毛を引き起こします。
感染は、直接的な接触や感染した動物から環境中に拡散します。
免疫力が未発達な幼犬や、免疫系が弱まっている老犬に特に発症することが多いです。
ストレスや栄養不良、既存の皮膚病も感染のリスクを高める要因となります。
一般的には猫での感染が多く、犬ではあまり見られない皮膚疾患になります。

治療は、感染の程度に応じて、抗真菌薬の局所的、全身的な投与で行われます。
最も一般的な治療法は、感染した皮膚に直接抗真菌薬を塗布し、さらに経口薬による抗真菌薬を用いることです。
治療は症状が改善してからも続ける必要があり、何よりも大事なのが、正しい環境の清掃と消毒も同時に行うことです。
また治療する側の飼い主も、自身に感染しないように手洗い、消毒を徹底しなければいけません。

犬の皮膚糸状菌症を治療した症例

今回ご紹介する症例は4ヶ月齢の柴犬で、右後肢の裏にカサカサした皮膚の変化と軽度の脱毛があるとのことで来院されました。
本症例は元々はブリーダー崩壊により保護された子犬であり、猫と一緒にいたたことと、まだ幼く免疫がしっかり発達していなため、感染したものと思われました。

この検査を踏まえ患部の毛のPCR検査を行ったところ皮膚糸状菌が検出されたため、皮膚糸状菌症と診断しました。

丸く脱毛してカサカサしてます
ウッド灯で陽性となっている様子

以上の検査を踏まえ、抗真菌薬の内服と外用薬による治療を開始しました。
治療開始1ヶ月後、PCR検査で皮膚糸状菌は検出されなくなり、皮膚も著しく改善しました。
脱毛していた部分に毛が生え、皮膚のカサつきも解消していることが確認できます。

きれいな皮膚になりました!

まとめ

この症例からわかるように、犬の皮膚糸状菌症は適切な治療を行えば効果的に回復が期待できます。

上述した通り、ワンちゃんの皮膚糸状菌症はネコちゃんの皮膚糸状菌症より珍しくなかなか現場では遭遇しません。
同様の病変があるワンちゃんを飼われている飼い主様がいらっしゃればいつでも当院までご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。