猫の縦隔型リンパ腫について

猫のリンパ腫は、血液のリンパ系のがんの一種で、猫のがんとしては最も一般的なものの一つです。
このがんは、白血球の仲間であるリンパ球が異常に増殖することによって発生します。

リンパ腫には、発生部位によってさまざまな型があり、

  • 消化器型リンパ腫
  • 縦隔型リンパ腫
  • 多中心型リンパ腫
  • 皮膚型リンパ腫

などが一般的です。

今回ご紹介するのは、この中の縦隔型リンパ腫です。

縦隔型リンパ腫は、主に胸の中のリンパ組織(胸腺、縦隔リンパ節など)に腫瘍が発生する型で、猫白血病ウィルスが密接に関係すると言われています。
猫白血病ウィルスは子猫の時から唾液や糞便や乳汁などから感染することがあるため、この縦隔型リンパ腫は若齢猫でも発生します。
最近では予防が行き届き、完全室内飼いが定着している都市部ではあまり発生せず、野良猫の多い地域や保護猫で発生することが多いです。
症状は、呼吸困難・元気消失・食欲不振などが挙げられます。
治療は通常、複数の抗がん剤による多剤併用の化学療法によって行われます。

猫の縦隔型リンパ腫の症例

今回の症例は避妊雌1歳の雑種の猫ちゃんで、元気食欲がないとの主訴で来院されました。
身体検査を行ったのちにレントゲン検査を行うと、心臓の前方に巨大な腫瘤性病変が確認されました。

心臓の前方に心臓と同じサイズくらいの腫瘤が認められました。

リンパ腫は、腫瘤から採取された細胞を観察する細胞診という検査と、リンパ腫の遺伝子を検出するクローナリティー検査を行うことで診断可能なことが多いです。
この猫ちゃんの胸の中には胸水という水が溜まっていたので、今回は胸水を注射器で抜去することで胸水中の腫瘍細胞を観察しクローナリティー検査を行うこととなりました。

細胞診の画像。紫色の細胞がリンパ腫の細胞です。

この二つの検査の結果、T細胞性中等度分化型リンパ腫と診断されました。

治療は、Lアスパラギナーゼ、ビンクリスチン、シクロフォスファミドという抗がん剤を毎週投与していく多剤併用療法を用いました。
幸いなことに、この猫ちゃんでは抗がん剤の副作用が見られることもなく、2週目にビンクリスチンを投与してから腫瘤は縮小していき、レントゲン検査では観察できないほどに小さくなりました。それに伴い、食欲や元気、呼吸状態も改善していきました。

2週目のビンクリスチン投与後のレントゲン画像。

今回の猫ちゃんはこの様に抗がん剤に良好に反応し、治療開始後119日現在、抗がん剤は定期的に投与しているものの、再発することなく元通りの元気な状態を維持できています。
今では走り回る様になったとのことです。

リンパ腫という悪性腫瘍の名前を聞くと、多くの飼い主様は驚き、中には治療を諦めてしまうこともあるかと思いますし、仕方のないことだと思います。
ですが、今回の猫ちゃんのように抗がん剤治療によって、元通り元気な生活を送れる様になることもあります。
もし愛猫にリンパ腫などの腫瘍が見つかり、治療に悩まれている方はいつでも当院にご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。